10週5日〜稽留流産が分かった日②〜

どれくらい泣いただろう。

わんわん泣いた。

少ししたら落ち着いたので、帰宅後の習慣である手洗いうがいをした。

もしかしたら夢だったのかな?

それくらい現実味が無かった。

現実を受け入れることができていなかった。

荷物を片付けよう、と思ってカバンを開けたら、母子手帳が見えた。初診の記録だけ書いてある母子手帳

ここにはこれから成長の記録や、予防接種のスタンプラリーの記録が載るはずだった。

その母子手帳には今朝のエコー写真が挟まっていた。3センチほどの赤ちゃんがしっかり写っていた。手も足もしっかりあって、頭の形もキレイ。美人さんだ。

エコー写真を見たら、また涙が溢れてきた。

心拍が止まったのはおそらく先週。

その日、その時、私は何をしていたんだろう。

気づいてあげられなくて、本当にごめんね。

あと一週間早く病院に来ていたら、元気な君が見れたんだろうか。

でも、もしそうだとしたら先週は仕事のピークだった。知っていたらまともな自分ではいられなかっただろう。

気づかれないように静かに逝ってしまったのだろうか。

頭の中で、現実や過去、未来をふわふわと行き来しながら時間が過ぎていった。

時計を見たら、13時。

良かった。娘のお迎えまでまだ時間がある。

それまで泣き尽くそう。

そうでないと、見慣れた顔を見た瞬間に泣いてしまうと思った。

掻爬手術の同意書を眺めながら、来週いっぱいは会社を休みたい、そう思った。

なんなら一か月くらい休みたい。

いまちゃんと悲しんで、深い悲しみや胸の痛みを味わっておかないとあとで絶対後悔すると思った。

自分を偽って仕事をするのは、私の仕事柄を考えても良くない。

気持ちが少し落ち着いたところで、妊娠を打ち明けていたごく限られた会社の人たちに連絡をした。まずは一週間休みをもらうことにした。

みんなからのメールが心にしみて、返信が来る度に泣いた。

夕方まで、部屋の電気もつけずにひたすら泣いた。目はパンパンに腫れた。

そろそろお迎えに行かなきゃ。

メガネをしてマスクをかけた。

これならだいぶごまかせる。

それなのに、保育園では普段会わないママ友になぜか会いまくり、保育士さんもかなり話しかけてきた。

普段と様子が違うのがバレてたのかな。

でも必死に取り繕って、笑顔で話した。

娘と手を繋ぎながら、いつもの道を帰る。

いつもより娘の手を握る力が強くなった。

離したくなかった。

娘には妊娠していることは言っていなかった。

でも伝えようと思った。

「おかあさんね、今日いっぱい泣いたの」

「どうして?」

「とっても悲しいことがあったの」

「何があったの?」

質問に答えようとすると、声が震える。

「おかあさん、どうしたの?」

「何が悲しかったの?」

3歳の娘が心配そうに私を見つめている。

「お腹にね、赤ちゃんがいたんだけどね、心臓が止まっちゃったの」

それから少しずつ説明した。

「あかちゃん、死んじゃったの?」

そうだよ。そう答える私は涙を我慢できなかった。

それでも夜の日課はある。夕食を作り、食べ、お風呂に入り、娘と話をしながら寝た。夫は仕事で遅かった。まだ大人と話せる状態じゃなかったから、帰宅が遅くて良かった。じゃなきゃ自分を保てなかった。

土日の予定もキャンセルし、ここからの一週間はとにかく自分とお腹の子、そして家族のための時間にすることにした。